音楽院でのことです。
3年前からピアノを習っていた、ヤスミンちゃんが、
転校することになりました。
お父さんの仕事の関係で、
突然、決まったのです。
お母さんから、
「パリ近郊に行きますが、いい先生をご存知ですか」と
聞かれました。
いえ、そこには知り合いはいませんけど、
音楽院があるのですから、そこへいらっしゃい、と
言ったはいいものの、
もう、新学年は始まっています。
新たに、新入生を受け入れるほど、空きがあるのかどうか。
たぶん、
来年を待ちながら、
個人レッスンを頼むことになるでしょう。
さて、
きのうが、ヤスミンちゃんとの最後のレッスンでした。
お家では、ダンボール箱だらけで、
引越しの準備の中、
ちゃんと練習してきました。
ふつうに、さっさと、レッスンをして、
最後は、お話の時間をとります。
今までも、あまりおしゃべりではない彼女は、
ここ数週間、もっと無口になっています。
小さな顔に、大きなマスクで、目元ぐらいしか見えませんが、
今にも、泣きそうな感じです。
私だって、寂しいです。
はなむけに、なにか、一曲弾きますから、どんなのがいいかしら?
と、尋ねると、うーん、としばらく考えては、
「楽しそうな曲」というお答え。
楽しそうな曲というのは、ピアノレパートリーでは、
どちらかというと数少ないです。
ボッケリーニのメヌエットを、思い出しましたので、
それを弾きました。
3度の和音が続くところなんて、
まるで、はっはっはっはっはっは、と笑っているようです。
ですが、
楽しい曲をリクエストされるときは、
ご本人が、悲しいとき、という確率は高いです。
それに、こんな時に「はっはっは」なんて笑うと、
悲しさが、よけいに増えるような感じです。
ヤスミンちゃんは、
相変わらず、何も言いません。
ただ、じっと、そこに座っています。
時間が来ても、立ち上がりもしません。
でも、
見つめ合っているなんて、気まずいのやら、寂しいのやら。
私が、一方的に、お話しをしてしまいます。
それではね、引き続き、ピアノ、エンジョイしてね、とお話ししているうちに、
次の生徒さんが、やって来ましたので、
ようやく、
さよならの時間になりました。
今、思い出しましたが、
ヤスミンちゃんは、「au revoir(さようなら)」も言いませんでした。
ハグをして、
ただ、帰って行きました。
ずいぶんと、
悲しいひと時でした。
いい思い出になりますように!
Chiyo
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