数年前の音楽院でのことです。
クレールさんという、高校生の女の子の話です。
とてもていねいに、なんでもよく練習するピアノの生徒さんでした。
ただし、音のタッチが浅くて、
なんでも、音が弱いのが、悩みのタネでした。
試験の時など、どういうわけか、ことさら音が小さくなります。
ふだんは、とても愛想よく、おしゃべりなので、
内気、というわけでもありません。
高校のクラスでは、人気投票で、
「フレンドリー度数一番」に選ばれたような人です。
さて、
そのクレールさんが、
ある日、足の手術をしなくてはならなくなりました。
足の骨を削るので、
まずは右足。
数ヶ月経ったら、左足。
合計、7ヶ月くらいは、松葉杖を使わなくてはなりません。
しかたありません。
でも、まぁ、ピアノへの差し障り、と言ったら、
ペダルを使えない、だけです。
指の方は、きちんと練習できるだろうと、
あまり気にしていませんでした。
さて、
しばらくしたら、思いもしてなかったことが起こりました。
演奏に、変化が出てきたのです。
音が、大きくなっています。
それに、いろんな種類の音色が、使いこなせるようになっています。
したがって、
表現力も、幅広くなってきています。
私は、大喜び。
これは、きっと、松葉杖のおかげだと思いました。
あの松葉杖というのは、
私は使ったことがないので知りませんが、
どうやら、腕の力、腹筋が必要なのです。
7ヶ月間、
ぐんぐん、音の質も変わってきて、
元気で表現力のあるピアノが弾けるようになりました。
これが、
松葉杖による筋トレのおかげだというのは、
ほぼ、自信をもって、言えます。
理由は、
残念ながら、
足が回復して、
松葉杖もいらなくなった時、
また、前の小さな音に、もどってしまったからです。
いくら、その気持ちがあっても、音が出ません。
やはり、あれは、筋肉のおかげだったと思います。
さて、
そのクレールさんは、今では、
お母さんになりました。
一歳のお嬢さん「ルー」ちゃんが、
元気よくピアノを叩いている動画が、
先日、送られてきました。
ルーちゃんは、どんな音で弾くのか、
楽しみです。
また、お母さんになったクレールさんは、
赤ちゃんを抱っこしたり、
家事もこなしたり、、、をくりかえしているうちに、
腕の筋力も、アップしているのではないかとも、
考えています。
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